『バーツ -白き天使と黒き悪魔-』 -2-
「セーバ!」
階段を上がりきると事務官が1人、俺の名を呼んだ。
「なんだ・・・レイラか」
レイラは俺の返答に不満があったのか、不機嫌そうな顔をした。
そして俺の所に来ると、新しそうな封筒を俺に渡した。
「これは?」
「任務資料・・・長老に『速急に』って頼まれて焦ったよ」
「それは悪かった」
俺が頭をかいて謝ると、レイラはわざとらしく溜め息をついた。
レイラは腕を組んで、俺をちらりと見た・・・それは睨んでいる様にも見えた。
「任務が終わったらすぐ申請!ここの規則だって何度も言ったでしょ?
いい加減バーツとしての自覚もちなさいよ・・・」
バーツ・・・俺の職業であり、俺のことでもある。
特定の人種を差す意味もある・・・と、随分前に長老に聞いた。
俺は封筒の中身を確認した。
任務先の地図、メンバー表・・・そして、任務内容の紙。
内容を見て、俺は溜め息をついた。
「また遠い所?・・・それとも難易度が高いの?」
「どっちも」
「・・・そう」
レイラはそう言って、また事務室の方へと歩き出した。
レイラはなんだかんだ言って昔から、俺の世話をしてくれている。
親が事務官のトップであったレイラは、幼少のときからここに出入りしていたこともあり
周りからの信頼は厚いし、ここ一帯についても詳しい。
新入りのときから、レイラには本当に世話になっている。
「ねぇ、セーバ・・・」
「・・・なんだ?」
レイラは少し離れた所で立ち止まった。
そしてこっちを向かずに、俺に言った。
「・・・無事に帰って来てね・・・?」
レイラは言うだけ言うと、俺の返事も聞かずに走り出した。
俺はレイラから受け取った書類の袋を見た。
端に少し、強めに握った後があった・・・心配してくれているのだろうか?
俺はクスッと笑い、溜め息も1つした。
部屋に寄っていつもの鞄とコートを引っ掴んで、正門を出た。
向かう先は・・・"駅"。
+++
「おや・・・お嬢様じゃありませんか?」
「・・・フィンス?」
「ご名答」
門の横に立つ背の高い木がカサッと揺れた・・・。
と同時に、私の前にひとりの少年が降り立った。
「2ヶ月ぶりですね・・・便りも送れず申し訳ありません」
「いいのフィンス。あなたが向こうで忙しかったのは聞いているから」
私が笑うと、フィンスはにっこりと笑った。
「今後はもう向こう・・・中界へ行く予定もありませんので、ご安心下さいませ」
「そう・・・でも私は行くことになってしまったの」
フィンスは一瞬、目を丸くした。
でもすぐにいつもの表情に戻って、残念そうに呟いた。
「そうですか・・・残念です。
ですが、あなたはスラ・バーツになり得るもの・・・仕方ありません」
スラ・バーツ。
それは、バーツの長であり、世界を治めるもの。
スラ・バーツが死んだ時、次のスラ・バーツはバーツの中から選ばれる。
私は小さく「そうね」と呟いた。
「では私はあなたにまた会える日をここで待つことにします」
フィンスは笑顔を作ってくれた。だから、私も笑顔を返した。
「・・・いってらっしゃいませ、お嬢様」
「ええ、行ってくる・・・すぐに帰るつもりよ」
私は門を開けた。
そしてフィンスに背を向け手をふりながら、門を出た。
私はそのまま、"駅"へと向かった
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