『バーツ -白き天使と黒き悪魔-』 -4-
なんて深い闇だろう・・・いつだってそう思う。
数回は来たことがあるが、いつもそう思ってしまう。
その深さには不思議な感情を覚える。それは恐怖か、はたまた好奇心か。
俺にも分からない・・・だが、それが分かった時、きっと闇は小さく思えるだろう。
そんなことだけが、頭をよぎる。
「おやおや・・・お客様ですか」
闇から響くように聞こえたのは、先程の銀の仮面をした男と似た声だった。
「またお前か・・・-金の使者-」
「私を覚えてらっしゃるとは・・・変わったお方ですね」
「この前は随分と変わった扉に案内してくれたからな」
コツンと、後ろから音がした。
振り返ると、金色の仮面をした男がいた。
「それはそれは。しかし・・・それは必然でしょう?」
「必然、か」
俺はふっと笑った。
男は仮面の下で、一体どんな表情をしているのか・・・俺には分からない。
「そう、必然です・・・ー
これからの世界は、既に決まっているのですよ」
男はそう言って、両手を広げた。
「世界は今不安という感情を持っている。
しかし、もう決まっているのです・・・次の世界も、スラ・バーツも」
「スラ・バーツ・・・」
世界を治める者、そして今、無である者。
今の世界、そしてこれからの世界を治める者を、世界は探している。
「お前は知っているのか?
この先の事を・・・必然として決まっている未来を」
俺は男を見た。
男の仮面におおわれた顔を。
「・・・どうでしょうか?」
男はそう言って、宙を手の甲で叩いた。
すると、木の板でも叩いたような音がした。
「おやおや、お時間ですね・・・残念」
「残念?奇遇だな・・・俺もだ」
男は手で拳を作った・・・何かを握っているように。
それは金色のドアノブで、瞬く間に1つの扉が現れた。
俺は幻覚でも見ているかのような気分になった。
「ですが、この扉が待っています・・・さぁ、お行きなさい」
男は手を出した。そしてもう一方の手で、仮面に手を当てた。
ピシッとひび割れるような音がして、仮面に亀裂ができた。
そしてその裂け目から順に、破片へと化していった。
「また今度お会いしましょう、必然と言う名の未来の中で」
白い手袋をはめた手に、仮面の破片が集まった。
それは次第に、金色の鍵へと姿を変えた。
俺はいつものように、それを受け取る。
・・・その瞬間には、男の姿はなくなった。
「それが必然であれば、な」
俺は扉に鍵を使った。
この先がどうであるか、それは未来の俺だけが知る。
+++
「おやおや、続けてもうお一方、ですか」
目の前に現れた男は、先程の男と似たようなことを口にした。
顔も手でおおっていた・・・本当に似ている。
「私の前に、もう1人来ていたの?」
「ええ、つい先程まで」
男は笑うように言うと、手を外した。
顔にある仮面は、先程の男と色違い。
私はクスッと笑った。
「そう・・・」
「どうかなさいましたか?」
男が尋ねると、私は広げた羽を大きく動かした。
数枚、ひらひらと舞い落ちる。
「その人、私と同じ道を通っているのね・・・不思議だわ」
私は男に笑いかけた。
男は手のひらを返して言った。
「不思議、ですか」
「ふふ・・・運命とでも言った方が良いかしら?」
私が言うと、男は笑った。
「運命とは・・・また上品な言葉ですね。
私は『必然』という言葉を信じていますがね」
「必然・・・」
面白いことを言う男だと思った。
これが不思議であるか、運命であるか、必然であるか、私は知らない。
目の前にいる男も知らないだろう・・・男は笑っていた。
知るのはこれを過去とした時、それだけは知っていた。
「おや・・・もう、ですね」
男が言うと、扉が現れた。
私はもう一度、羽を動かす。
「・・・それは残念だわ」
「お行きなさい、お嬢さん」
男は仮面に手をかけ、私の前に手を広げた。
破片が散らばるとともに、鍵が目の前に現れた。
「ふふ・・・また会いましょう、金の仮面の人」
鍵に触れると、男の姿は消えていた。
私は鍵を扉の鍵穴に差し込んで、扉を開けた。
この先にどんな物があるのか・・・好奇心だけで体が動く。
私はこの向こうの何かに引かれるように、扉の向こうに足を踏み入れた。
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