『バーツ -白き天使と黒き悪魔-』 -5-






「いらっしゃい・・・バーツさん、だっけ?」





目を開けると、1人の少年が机の上に座っていた。

少年の顔には、左目をおおう眼帯がしてあった。

小さな小屋のような場所に簡素な家具が並んでいて、俺はそこにいた。

微笑を浮かべたその顔は罠に嵌った兎を見るような、勝利を確信した目だった。

今までの経験から、今回の任務ランクーレベル5ーに納得を覚えた。





「それは種族だ。俺の名はセーバ、天界のバーツだ。」

「へぇ、セーバ・・・悪くないわね」





辺りを見回すと、他にも1人、少女が居た。

彼女が今回の相手・・・か。

彼女はくすくす笑う。黒い髪と黒い羽が穏やかに揺れた。

俺の肩位の高さに彼女の頭があり、顔からもまだ幼さが感じられ、

髪は毛先まで漆黒で、白い肌によく映えていた。

黒い服も、どこか貴族のような雰囲気が漂っていて・・・

そして、強者のオーラが漂っていた。





「私はあなたとは何もかも違うようね・・・」

「どういう意味だ」

「すべてにおいて、逆ってこと。
 私はカレン。下界のバーツなの」





カレンは横に腕を伸ばした。すると、腕に巻かれていた紅いリボンがひとりでに宙に舞った。

リボンはすぐに何かに巻き付くかのように、空間で形を作った。

それをつかんだカレンはリボンをとった。

現れたのは、彼女には不似合いな程大きな鎌。

どうやらこれが、彼女の武器らしい。



俺も、左手にしていた手袋を取った。

そして意識をその手に集中させ・・・うっすらと青い炎のような光を、その手にまとわせた。

彼女はその光をじっと見つめていた。





「1つ聞いておこうかしら」

「何だ」





彼女は一息ついて、言葉を続けた。





「次期スラ・バーツ候補っていうのは、あなたかしら」

「・・・どうしてそう思う?」

「オーラ・・・っていうのかしら。
 あなたのからは、そんな感じがしたの」





カレンはにっこりと笑って「違うかしら」と言った。





「スラ・バーツねぇ・・・聞いた事はあるなぁ」





机の上に座っていた少年が言った。





「確か・・・バーツのトップで、この世を治めるヤツで・・・一番強いんだろ?」





少年はテーブルから降りた。

その途端、少年の立っている所から床に亀裂が走った。

みるみる部屋が崩壊し、そこは先程まで居た場所とは違うように感じられた。

下は底が見えない程深く、恐ろしさを感じるような黒。

自分のいるまわりは赤と黒の入り交じったような、複雑な色をしていた。

昔、長老が言っていた。「その場所は、作り出した者の心をあらわす」・・・と。

不敵な笑みを浮かべた少年は、ふわりと風をまとうように宙を歩いた。





「さぁ・・・はじめようか!」





+++





『あなたは次期スラ・バーツ候補。
 失敗は許されない・・・わかっているわね?』

『迷い魂(まよいご)を勝ち取ること、それだけをすればいいのよ』





小さな頃から何度を言われてきた言葉。

今更になって、また思い出した。





「先に行かせてもらうぞ」





隣に居た男・・・セーバと名乗った天界のバーツが、翼を広げた。

バサッと大きく羽ばたき、今回のターゲットである男の子に直進した。

私は男の後に続いた。





「へぇ、思ったより早いんだねお兄さん」





男の子は向かってくるセーバを見てにやりと笑った。





「今どれだけ集めるかが、次期スラ・バーツを決めるんだもんね・・・
 お兄さんには落とせるかな、僕を・・・迷い魂を」





迷い魂(まよいご)・・・それは、死んだ者の魂で、この中界を浮遊している。

私たちバーツの標的であり、バーツがより優れた力を得る為に必要なもの。

より強い者程自我を持ち、より人型になっている。



今回の迷い魂はわりと高レベル・・・逃すわけには、いかない。





「スラ・バーツの座に興味はないが、お前は俺の力になってもらう」





セーバは羽を大きく羽ばたかせ、男の子・・・迷い魂に近づく。

先程まで手袋をしていた左手には、青白い炎が灯っていた。

右手で左手首をつかむと、その炎は強い光を発しながら球状になった。

そして、そのまま直線上に居る迷い魂へと放たれた。





「・・・っ!」





迷い魂がダメージを負ったと同時に、視界がぐにゃりと歪んだ。

これは・・・?





「へぇ、やるなぁお兄さん」





息を荒くした迷い魂は、セーバの攻撃が当たった胸部をつかんだ。

服にじわりとしみる紅をぎゅっと握った。

指の間から滴ったものが、見えないそこへと堕ちていった。





「じゃあ僕からも行かせてもらおうかな・・・!」





迷い魂は、左目の眼帯に手をかけた。

ずれたその隙間から見えた瞳は・・・深い深い黒。




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