『バーツ -白き天使と黒き悪魔-』 -6-
「お姉さんは、もうかかっちゃったみたいだね・・・」
少年が眼帯を外した・・・その黒い瞳は、カレンをとらえていた。
俺はカレンの方を見た。
紅だった左の瞳が、黒になっていた。
「僕の能力はこの左目に宿っているのさ」
少年は宙を歩くように、ゆっくりとカレンの前へと向かった。
近づく獲物に、無反応のカレン。
彼女の事はよく知らないが、俺にも分かった・・・何かがおかしい。
そして少年はカレンに声をかけた。
「大丈夫、お姉さん?」
不敵な笑みを浮かべた少年が、カレンの肩を叩いた。
カレンは驚いた様子で、すぐに少年に鎌を向けた。
それはまるで、今まで全く気付いていなかったような素振りだった。
少年は逃げようとはしなかった。
むしろ、攻撃を誘っているようにも見えた。
俺は動こうとしなかったが、カレンは鎌を振り下ろした。
「おっと」
少年は軽やかにステップを踏むように、カレンとの間をとった。
カレンの攻撃は直撃にはならなかったが、少年の体にかすった。
すると出血する少年とは裏腹に、カレンが突然、体をかがめた。
「・・・っ!」
カレンが言葉にならない叫びとともに、頭を抱えた。
何が起こっているのか、俺には理解できなかった。
ただ分かるのは、原因が少年の黒い瞳であること。
俺は少年を見た。
「お兄さんには分かんないだろうね・・・あははははっ!」
そして少年は笑った。高らかに・・・無邪気な子供のようにも見えた。
カレンの周りを回ってはくすくす笑い、
疑問符を浮かべる俺を見て大声で笑っていた。
俺は何かを感じた。
純粋な笑いの中の・・・物悲しさ。
「カレンに何をした」
俺は強い口調で言った。
「・・・お姉さんを庇うの?」
少年は笑いを止めた。
黒い瞳が俺をとらえる・・・何かを訴えるような、瞳。
「ただ純粋な興味だ」
「へぇ・・・」
少年は、カレンを見てから再び俺を見た。
そして口の端をつり上げる。
「こういうことだよ、お兄さん」
少年の黒い瞳が俺を見つめた。
「・・・これは・・・!?」
突然、目の前が、暗くなった。
+++
視界が何度も歪む。その度に、頭に激痛が走る。
これがこの迷い魂の力・・・?
歪んだ光景はなかなか戻らない。
獲物がどこにいるのかさえ、わからない。
さっき攻撃した時は、少しだったけれど視界がぶれた。
・・・なにか関係があるのだとしたら、これ以上うかつに攻撃は出来ない。
頭痛は増すばかり。
どうしたらいいのだろうか。
「・・・これは・・・!?」
セーバの声がした。
視界もだんだんとはっきりしてきた・・・迷い魂が回復したのだろうか。
「どう、お兄さん?」
ぼんやりした中に見えたのは、膝をついたセーバだった。
「セーバ・・・?」
迷い魂はセーバの髪を荒々しくつかんだ。
「僕の能力はね・・・相手の視界をコントロールすることなんだよ。
僕が傷つくとそれだけ視界は歪んで、脳にダメージを与える・・・面白いでしょ?」
また、迷い魂が笑った。
つかんだ手を放し、セーバを落とした。
「うっ・・・」
セーバは私と同じ苦痛を味わっているの・・・?
なぜ、そんなこと・・・
「カレン・・・聞こえるか・・・」
「セーバ?」
頭を抱えたセーバは、ふらふらと立ち上がった。
「倒せ、迷い魂を」
「!」
よろけながら、私を見る。
黒ずんだ左の瞳が、訴えるように見ていた。
「お前なら分かるはずだ・・・アイツの1つの欠点が」
何を言っているのか、分からなかった。
・・・迷い魂の言葉がなければ。
「何を言ってるの、お兄さん?
僕は相手の視界をコントロールできるんだよ?」
ー・・・ああ、そういうこと。
セーバがやらなければわからなかった。
そして、今のセーバには出来ないけど・・・私になら、アイツを倒せる。
「私はあなたに協力するつもりなんてないけど・・・」
私は鎌を構える。
「迷い魂を倒す為なら、やってあげるわ」
前へ 次へ
戻る