嫌いの反対
好きなんかじゃ、ない。
これは絶対で確実、そして本心。
そう信じていたのに・・・。
***
「おーい鈴木(すずき)。今日俺と日直だろ?」
「は?」
私がぼーっと見つめていた教科書から目を上げた時には、もう木下(きのした)は私の前にいた。
「ごめん、私まだ黒板写し終わってないんだ。どいて?」
「あと2分で授業始まるな・・・黒板消すぞ」
「ちょっ・・・待ってよ!!」
私が木下の手をおさえた時には、黒板の前にいた。
「さ、消すぞ。
ノートならあとで見せてやるから」
手に渡された黒板消しで、しぶしぶ黒板をふく。
男子のわりにはよく働くヤツだなぁと思いつつ、私は3分の1をふいた。
残りは木下が全部やってしまった。
すぐに先生が入ってきて、教室が静まる。
私も木下も、席に着く。
「授業を始める。まずは宿題の答え合わせだ。
・・・忘れたヤツはいるか?」
先生の声にびくっと方を震わせる男子が数名、忘れたくせに堂々と座る男子数名、そして・・・
「せんせーい!俺忘れましたぁ! あ、あと教科書も!」
のんきに自己申告するヤツ、1名。
クラスの数名を除いて、笑いに包まれた。
全く呆れた・・・こういう所は普通の男子と一緒・・・いや、違うのか?
「仕方ないな・・・鈴木、木下に教科書見せてやれ」
隣の私は先生に指名されてドキッとしたが、すぐにのんきな木下を見て頭を垂れた。
木下は軽いノリで机をつなげ、私の暗い顔には見向きもせずに笑っていた。
***
この日はこのあと、同じことを5回位繰り返した。
いや、正確には4回・・・体育の時間はこいつの18番。
教科書が無いので叱られない上、生徒の手本にまでされる時間だ。
でもまぁ他の5つの授業は全滅・・・何とも言えない感じ。
「っと・・・あとは日誌か」
「そだね」
私はぼーっとシャーペンを眺めていた。
なんていうか、これ位しか見る物が無かったから。
今は放課後で、教室の生徒は私と木下だけ。
他に目に映る物と言えば、ひらひらと舞うカーテンと、このシャーペンぐらいだった。
「今日は・・・晴れ?」
「曇りじゃない?」
まるで、自分の心の中の様だなんて思った。
私は小さく、溜め息をついた。
木下は上機嫌のまま、日誌を書き上げていく。
担当は1ページ。半分は今日1日の授業内容で、もう半分は感想を書く。
木下はとうとう、上半分を書き終えた。
その姿に、少しだけ見直した。
こういうことはちゃんとやるんだ、と。
「んじゃ鈴木、先感想書いてよ」
木下は私に日誌とシャーペンを渡した。
用意していたシャーペンに出番は無い様だ。
ペンケースにしまうと、私は木下のシャーペンで感想を書いた。
『今日は割合と眠くならず、居眠りを1度もせずに授業を受けられた。
この調子で毎日出来たらいいと思った。』
そんな低レベルな文章を書き、私は木下にシャーペンを乗せた日誌を渡した・・・
いや、正確には渡そうとした。
目の前にいたはずの木下はいつのまにか居ず、座っていた椅子には誰もいなかった。
「何よ・・・あいつ」
私はそれを木下の机の上に置き、鞄を持った。
小さく溜め息をついて、教室を出た。
少しは見直したのに、その気持ちもすぐに崩された。
いや、いつも通りと言えばそうかもしれない。
そうだ。いつも、そうなんだ。
今日はどうしたのか、いつもよりおかしいというか、なんか変な気分だった。
そもそも、なんで見直したりしたんだろうか・・・
なぜかピタリと、足を止めた。
もしかしたら、戻ってきてるかもしれない・・・。
そう思ったら、足が動いていた。
なんでアイツの為に教室まで戻るの・・・?
そんな質問は、自分からされたものでも答えられない。
というより、答えたくない。
***
馬鹿だった、と思った。
教室は蛻の殻で、木下のは愚か、他の生徒の鞄すらない。
なんという無駄足・・・私はやり場の無い怒りを自分で作ってしまった。
馬鹿だった、馬鹿だったんだ。
そんなことを考えながら、私は下駄箱へ向かった。
***
下駄箱のふたを開けて、ハッとした。
どうしてこんな馬鹿なんだ、と。
それはもちろん、自分に向かって。
「これ・・・木下のノートじゃん」
もしかしたら。
木下は私にノートを渡そうとして、ノートを探してたのかも・・・
でも私が居なかったから、わざわざ入れてくれたの?
それとも、帰りついでに入れたの?
分からないけど、木下がここに来て、ここに入れたんだろう。
それだけは、確か。
どうしてこんなことまでしてくれるんだか・・・
そう思っていると、ひらひらと舞い落ちる一枚のメモに目が止まった。
「これ、木下の字だ」
走り書きをしたような、汚い字だった。
でも、ちゃんと名前まで書いてある。
私のと、木下の。
『直接渡せなくてゴメン。一応教室とか探したけど、見つからなくて。
今日は用事があって早く帰らないといけないから、下駄箱に入れた。
返すのは明日でいいから。読めない所は明日にでも』
教室、何回見たの?
教室以外にも、探してくれたの?
たった一冊のノートの為に?
私の馬鹿・・・木下の、大バカ。
見直したなんて言わない。
ちょっとだけ、本当の本当に、ほんのちょっと、
・・・ソンケイかな。
***
好きだなんて言ってやらない。だって、好きじゃないんだもん。
誰が言おうと、それは決まってる・・・そう、信じてた。
でもそろそろ、その自信と気持ちは揺らぎそうな予感。
だからって、好きなんて言わないんだから!絶対、絶対。
でも、でも、今の私は・・・
嫌いの反対 って思ってる。
+あとがき+
『小春日和』の佐倉千尋様への捧げ物です。
意味不&長々とした文章で申し訳ありません・・・(汗)
まとめる能力が欲しいです。
嫌いの反対・・・さて、なんでしょう?
曖昧な言葉ですが、芯のある言葉だと思ってます・・・。
それを読み取って頂ければ幸いです^^
相互リンク、ありがとうございました!
2007/10/04 優香
+佐倉千尋様のみお持ち帰り可です+
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