雪入りコーヒー














「ラッピングはクリスマスのものでよろしいでしょうか?」





とあるデパートの、とあるお店。店員さんはいかにも0円の少々お疲れ気味の営業スマイルを、財布片手にレジ前でぼーっとしていた私にかなり強調した口調で言った。あわてて我に帰った私も、似たような笑みで「お願いします」と小声で言った。今度の土曜にある強制参加の部活のクリスマスパーティの為に買った、約500円のプレゼント。『500円以内でいいものを!』という先輩の言葉は、レジに並んでから思い出した。ま、いいでしょ。大体、今日クリスマスだよ?過ぎてからやるなら新年会にすればいいのに。店員から渡された袋は小さい。そりゃそうだ。中身は500円にしてはかなり頑張ったペンダント。男女どちらに当たっても無難そうな、至ってシンプルなデザイン。そのくせペンダントヘッドは指輪になるという優れもの。あ、あたしこれがいいな。

私はクリスマスがあまり好きではない。好きな所がないからだ。だから嫌いとも言えないけど。みんなはただ騒ぐけど私はそう言うのが苦手だし好きではない。だから、だ。

店員から受け取り列をはずれる。店はだいぶ混み出し、ちらほら五月蝿いバカップルどもが見られる。・・・早く帰ろ。そう思ったときだった。ちらりと後ろに並んでいた人を見、店の入口へと足を運ぶといきなり大声を出された。おかげで恥ずかしい位ビクッとなった。





「あ、何だお前か!」





いやーお前だったんだなー!そうかなーと思ったんだよ!と、馬鹿らしく大きな声で笑う男が目の前に居た。一応知っている。非常に残念なことに、頭の隅の隅に1ミクロン程度の記憶として存在してしまっている。出来れば知らないフリをしたいがそれも出来ない状況が出来つつあった。溜め息をつくと、誰かとかぶった。先程会計をしていた店員だった。彼は笑いながら謝って会計を済ませた。先に行ってしまおうと思ったが会計がすんなり済んでしまって、行くタイミングを逃した。





「なぁなぁ、なんか飲まね?暑くて喉からからでさー





彼はそれから暑いだの、ここの空調はどうなっているんだだの、文句を言ったりしていて本当に五月蝿かった。1人で行ってくれば?と言いたい所だったが、そうも言えなかった。理由の1つに、私も喉が渇いていた。あとで喫茶店で会えば再び何かと五月蝿く言われるだろうし、それはそれで面倒だ。

そして何より、彼が最後に付け足した一言。





 今日は金あるし、俺の奢りでいいからさ!」





私の耳は都合よく、途中の雑談は聞き流し最後のこの一言だけはしっかり聞き取った。ナイスあたしの耳。仕方ないからついて行ってやるか・・・。私は彼に軽く頷き、喫茶店へ向かった。

店内は蒸し暑く、見回した限りホットよりアイスを頼む人が多いようだった。彼がへレジへ向かったので、私は適当な席を見つけ荷物で陣取ってから上着を脱いだ。





「あいよ」





彼は気を利かせもせずホットコーヒーを2つ持ってきた。砂糖とミルクは1つずつ。ブラックでも美味しそうに飲む姿には何故かむかつきを覚える。私は両方とも入れて冷めるのを待った。彼はおもむろに、私の鞄を見た。小さな紙袋を見ていた。ああ、クリスマス会の。





「暑いな、結構」
「そうだね」





私が返すと、彼は上着を着た。今暑いって言ったばっかじゃん、何やってんの?と、心の中で思っていた。彼はそのままぼーっと斜め上の方へ視線を投げていた。ほんと何やってんの、アンタ。教室の中なら言うが、ここは喫茶店だったので私は喉まで来て飲み込んだ。彼はテーブルの上のものをいじり始めた。・・・何したいの。我慢できなくなって、口に出した。





「・・・どうしたの?」





彼は一瞬停止した。そして目を見開いた。順に意識を取り戻しとりあえず持っていた砂糖を元に戻した。彼自身、私の言ったことを自分に向かって頭の中で言っているようだった。私は溜め息をつく。慌ただしく上着を脱ぐ彼を見ながら。





「あ、暑いな」
「そうだね」





わざと同じ言葉を返してやった。本人も気付いたみたい。クラスで見ているのと全然違うな、と思う。教室中に響くような声で馬鹿笑いしてる姿を一番見る気がするのに・・・今は恥ずかしそうに頭をかいていた。なんなんだ、一体。少々ぎくしゃくした動きも何か緊張しているのかと思えた。といっても、緊張するものなんて何もないけど。





「どしたの、本当」





私たちの周りが一瞬静かになった気がした。なにか。周りに壁でも出来たような気分。そして、彼は口を開いた。





「あ、あのさ、どっか行かね?」





何言い出すかと思えば。彼も後悔しているようだった。だからこそ、とりあえずは何も言わないでおいてあげた。腕時計を覗き込むと時間があった。私はコーヒーのお礼代わりにしぶしぶOKした。言わないと、空気悪くなりそうだし。

外は寒く、コーヒーを飲んでいなければ震えてしまう所だった。行く先も特に決めず、とぼとぼ歩く。「何処行くの?」と問いかけると、彼は「さぁ?」と返した。いつものおちゃらけた笑いに、本日何度目かの溜め息をついた。





「クリスマス、か」
「?」





私は無意識のうちに呟いた。彼は疑問符を浮かべる。私は少し、彼に話した。クリスマスなんかどうでもいい、と。

すると彼は、「そうか?」と笑った。別に同意を求めるつもりもなかったが、そう言われると何とも言えない気分になった。面倒だったので更には問わなかったが、彼は勝手に喋った。





「今日は・・・お前に会えたし」
「え・・・?」




その一言しか言えなかった。その後は無言のまま、しばらく歩いた。何か言った方が良いのかもしれなかったけど、言葉が見つからなかった。丁度喉が渇き始めた頃、自動販売機を見つけたので買う為に彼に声を掛けた。彼はまたも気前よく奢ってくれた。再びホットを買った。まぁ、外なら断然ホットだし。私はカイロ代わりに手に握っていた。彼も少し歩いた所で買った。

ただひたすら歩いていた。言い出しっぺはいつかの如く斜め上の方へ視線を投げていた。どうすんの、これから・・・私はまた喉が乾き始めた。どうしてくれんのさ、と何の罪もない彼に嫌みな視線を送っていた。再び自動販売機を見つけた時、私は財布を取り出した。その時、彼はすこしどもりながら私を止めた。





「あ、あのさ!よ、よかったら、飲む?」





見せたのは、彼の飲みかけのコーヒー。ちらちら降り始めた雪が少し乗っていた。雪入ってんの渡す?普通。そう思いながらも、私は自分の缶を捨てて彼のを受け取った。彼の顔には「予想外」と書いてあった。自分で言ったくせに・・・。私が飲もうとすると、彼はじっと見ていた。気にせず一口飲むと、彼は目を泳がせながら顔を赤らめていた。何、なんかあった?私は聞く前に考えてみた・・・もしかして、間接的接吻とか気にしてる?男子なのに。先程の言葉を深く考えてしまえば分からなくもないけれど、それは自惚れかもしれない。・・・まぁ、私は気にしてないからどうでもいいけど。そんなことを考えながら、缶を返した。

今日は無事にプレゼント買えたし、コーヒー2杯も奢ってもらえたし・・・ま、良かったかも。

あ、そういえば、今日ってクリスマスだったなぁ・・・。




































雪入りコーヒーに免じて。
クリスマスも・・・まぁいいかな。






























+あとがき+
管理人はクリスマス大好きです!
うん、まずこれ言いたかった、なんとなく(笑)50%満足。
急ピッチで書いたんで、意味不明な出来です。ごめん。
読んでくれた人、ありがとうございマス・・・話、分かりました?
苦情はメルフォからどうぞ。ははは・・・。
最後に一言。はっぴーばーすでぃ、とぅーみー(笑)


2007/12/24-25 優香


閉じる